恋風吹く春、朔月に眠る君



 スマホだけを持って急いで家を飛び出した。向かうは家からちょっと離れた大きな公園。そこに向かって只管走る。今日はなんだか走ってばかりだ。

赤信号で止まるのさえも煩わしいと思いつつも漸く着いた。でも、スマホの時計を見ると、いつもの半分くらいの時間しか経っていなかった。公園の入り口あたりで呼吸を整えながら、砂を踏みしめる。

日の沈んでいない公園にはまだまだ子供たちがたくさんいた。その中に見慣れた姿を見つける。さっきの電話の内容を思い出した。


『まあ、なにもないけど、なに?』

『じゃあ、杏子がよく子供たちと遊んでる公園分かるか? そこへ来てほしいんだ』

『それって......!』

『お察しの通りだよ。悪いけど早めに来てくれないか』


まさか、こんなところで救世主が現れるとは思わなかった。今日はもう会えないだろうと思ったから。近づいていくと、先に司が気付いた。


「早いな」

「司が早く来てって言ったんでしょ」

「それもそうだったな」


私達の会話を聞いて、彼女が私の存在に気付く。その顔は驚いた表情をしていたけど、すぐに司を糾弾するような顔をした。


「どういうこと?」

「さあ? お前が一番知ってんじゃねえの」

「とぼけないで」

「とぼけてるのはそっちだろ。今日ずっとスマホ見て溜息吐いてること分かってるか? 子どもは敏感だぞ。あいつらだって元気がないことくらい分かるんだ。俺に双葉と喧嘩してるかもしれないって相談しに来たのはあいつらなんだから」


杏子が怯むのが分かる。右の拳をぐっと握った後、爆発したように言い切った。


「そんなの司くんには関係ない!」


怒ってしまった杏子はそのまま走っていってしまった。呆然と立ち竦む私に司が困ったように笑う。


「俺のせいでごめんな」

「な、なんで!? 司は関係ないよ!?」

「俺が全部杏子に話したんだ。今年、弟達が一緒のクラスになって、二人が仲良くなって遊びに来た時に迎えに来た杏子と会ってさ。それで、双葉はどうしてるかって聞いたんだ。杏子は『何言ってるの。好きじゃなくなったって言って振ったのは宇津井君でしょ』って。まさか、話してないと思ってなくて『甘楽さんは知らないのか......』って口を滑らせて.......。問い詰められて誤魔化せなかった。.......今回の喧嘩はそれが発端だろ」