教室は水を打ったように静かだ。ガラスの向こうで起こっていることは別世界の出来事のようで、外で活動しているだろう野球部の声も聞こえない。
吹奏楽部も今日は合奏練習でもしているのか、他の教室で出会うこともなかった。本当に、誰もいない。静かな空間。口を開くのも憚る静寂を割って私は聞いた。
「木花はどこまで知ってるの? どこまで予想してたの?」
私の声に振り返った木花が曖昧に微笑む。
「何も知りませんよ。ただ、誰にも言わなかったから双葉さんは今の関係を留められていたのだと思います。だから誰かに話してしまったら、良いようにも悪いようにも事が動くのではないかと思っていました」
ずっとずっとこの想いは封印してきた。それは、今の関係を壊したくなかったからだ。でも、私はそれを木花に話した。話して、木花が言ってくれたことによって、私は今までと違うことをした。
それによって、木花は良い方向に向かうことを望んでいたけれど、そうでない場合も考えていたということだろう。現に私は失敗して悪い方向に進んでいる。
「それでも貴女の感情を大事にして欲しかったから私は聞き出しました。だから、それで問題が起こったりすることがあれば、私はお話を聞くことしかできませんが、力になりたいと考えていました。
この前会った時にまた来てくださいと言ったのは、双葉さんが八方塞がりになった時、思い出してほしかったからです。私はここを動くことはできませんから、来てもらわないとどうしようもありません。だから、あの時あのように言いました」
「なんで木花はそこまでしてくれるの? なんで私にそんなに優しくしてくれるの?」
どうしてなんだろう。木花は最初から私に優しい。私は何もしていないのに、分かりにくい優しさで私に手を差し伸べてくれる。
「私は優しくないですよ。もし、私が優しいと感じるのならば、それは貴女が優しいからです」
「私が優しいって.....私はなにもしてないよ? 木花はいつでも優しいのに、私は何も返せてない」


