新人の若手見習い騎士のみが出場する


 第一部門『Tapfer』


 各国から選出された若手騎士一人ずつ計十人で一対一のトーナメント戦を行う。


 組み合わせは事前に行ったくじ引きで決められ、シードは二人。


 前回の舞闘会のこの部門で優勝したフェルダン代表は自動的にシード枠に入る。


 その為、なんと一回戦・二回戦は出番なし


 準決勝となる三回戦からの出場となった。





 一回戦が始まる。


 さすがに大勢の若い騎士の中から選ばれただけあって、新人と言えどレベルの高い戦闘が行われ、結果四人が脱落。


 二回戦は、一回戦で勝ち上がった四人が闘い、死闘の末二人が勝ち上がった。



 そうして、三回戦が始まった。


 広い会場を二つに区切り、それぞれで試合を行う。


隣合う試合会場に魔法の影響が出ると失格となるという、狭い空間での戦闘技術と魔法のコントロール能力が問われる試合だ。


ユウの相手は闇の魔力を扱うドゥンケルハイト王国のクロウ。


先程の試合を観察していたが、彼も相当強い。一回戦・二回戦で闘ったメンバーの中で一番初めに勝利した。


無口で無表情、感情を表に出さない淡々と仕事をこなすタイプだろう。


ユウはふうっと、息を吐いて前を見据える。




糸をピンと張るような緊張感が、彼らの間で流れる


そして試合開始の合図の音が会場に鳴り響いた。




その瞬間、各ステージで魔法が衝突した。


 縛発が起こり黒煙が立ち込め、雷鳴が轟き、地面が隆起する


 時間が経過するにつれ、激化するそれぞれのステージ。


 しかし、


 そんな激しい戦闘が繰り返される中、ユウがいる会場では他とは違う空気が流れていた。




「…おい、何のつもりだ貴様。おちょくっているのか…」


 手のひらから黒い靄の闇の魔力を放ちながら戦闘を繰り広げるクロウ。


 ポーカーフェイスの彼が僅かに表情を曇らせそんな事を呟く。


 それは何故か。


 理由は対戦相手であるユウの戦い方にあった。


 ユウは試合が始まってから今の今まで、魔法を何一つ使っていなかったのである。



「ハア、ハア、…ははっ!…残念ながらこちとら始めっからクソまじめです」



 全て体術のみでクロウと交戦していたユウ。


 不利な戦況に息を荒げるが、挑む姿勢は一切変えない。



「…魔法使いに魔法を一切使わずに勝とうと?…俺もなめられたものだな。その自信はフェルダン代表ゆえか?傲慢ではないか青髪の男。幾数もの修羅場を掻い潜った特殊部隊と貴様は違う。最強などと言えぬのだぞ?実に浅はかな考えだ…がっかりだよ」


 クロウの軽蔑の眼差しを受けながらも、ユウは変わることなく拳一つで彼に向かっていった。


「愚か者め…!」


 そう言うとクロウは闇の魔力を全身から発し、まるで衣のように自分の身に纏う。


 ドゥンケルハイト王国、国王軍伝統の《黒衣―烏―》という技。


 絶対の防御と攻撃力を備えた鎧らしい。




「術を使わないと言えど魔法使いに変わりはあるまい、魔力を吸い取り、強制的に脱落させてやろう」


 クロウの闇はユウを覆う。


「…悪く思うな、自らの力を過信し他人を見下した己の罰だ…甘んじて受けよ……」


 闇の中心で勝利を確信し、そう呟いたクロウ。


 その試合を見ていた観客も同様に、勝負の終わりを信じ、なんだ今年のフェルダンはこの程度かよ…とがっくり肩を落とす。



 そう、ルミア達特殊部隊の騎士以外は。