あれこれうるさい奴だ。布団に入れば少しは黙るのか、このバカは。

布団の中は今までに感じてきたのとは違い、とても温かい。


(人間は、温かい生き物だな…)



寝返りを打つ回数が多いコイツは眠れないのだろうか。


「ねぇ、白。」


人間ごときが俺の名を呼ぶとは生意気なものだな、まったく。

だが、雪が呼ぶのは心地良い。

もっと呼んでほしいと、柄にもない事を思ったりもする。


「もし、私が妖怪になったらどう思う?」


コイツが妖(あやかし)に、か。
人間が妖怪になるのは別に難しい事ではない。


…とても容易だ。


しかし、雪はそれをまだ知らない。


「もし、運悪く黒狐に連れ去られたら、白はどうする?」



どうだろうな。普通なら俺は見捨てるだろう、自分には関係無いものだと。

だが、相手がお前ならきっと俺は命に代えてでも守り通す。


初めて愛しいと思えた人だからな。


そして、ウトウトしながら次に言った言葉に俺は少なからず嬉しさを覚えた。


「もし、白のお嫁になるって言ったらどうする?」


聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いたその言葉ははっきりと俺の耳には聞こえていた。


俺の袖を掴む雪。その頬を撫でてみる。

寝ている雪の頬を撫でるとくすぐったそうにする姿がまた愛らしい。

ずっと昔から、俺はこうして夜になっては人間界に降りてきて彼女を見守っていた。


…懐かしいな。


今は、人間界へ降りなくてもコイツは俺の傍にいる。

その事にどうしようもなく胸が締め付けられた。