森の奥は広場のようになっていた。
だけど、そこは決して心地良い場所ではなく何だか邪悪なそんな場所のような気がした。


ふとその広場で目にしたのは、小さな祠(ほこら)。


(ここは、狐が祀ってあるんだ…。)


――『狐たん、雪と遊ぼ!』


懐かしい記憶の欠片が脳裏に浮かんだ。


「あれれ、自分から来るなんてバカだね?」


(あ…、ヤバイ…。)


見上げると、鳥居の上に座る黒狐の姿があった。


――『狐たんは怖い妖怪さんだね!』


また、幼い頃の記憶の欠片が。
何だろう、黒狐とはもっとずっと前から出会っていたような。


記憶の片隅にある、昔の私が言った言葉。なぜか、勝手に口が動いた。


「今の狐さんは、怖い妖怪じゃないね。」


あぁ、前にもこんな事を言った記憶がある。


黒狐はかなり驚いた顔で私を見ていた。
そんな顔をするって事は、やはりどこかで会っていたみたいだ。


「何でその記憶が、」


え?


「消したはずなのに、何で覚えてんの?」


そんなの知るわけがないでしょ。
ただ、その記憶が蘇るたびに頭がずきずきする。


あの時、懐かしい声だと感じたのはそのせいだったのかも知れない。