辺りを覆う濃い霧がゆっくりと消えていく。

だんだんと、周りの景色が明らかになっていく。

彼女の住み処は、まるで秋の景色だった。

少し肌寒くなってきたとは言えども、紅葉になるほどの気温ではない。


(ここだけ季節がまるで違う…)


「わっちは、季節を操る妖怪、撫子(なでしこ)。

だからここだけ、常に秋と言う訳さ。」


秋にこだわるのには、何か理由でもあるのかな。

秋の季節をまるで楽しむかのように夜空を見上げ、紅葉を眺める鹿たちは彼女をいたく気に入っている様子だ。