蒼井は、納得できないという顔をして掌を握りしめている。

「別に、深い意味はないって。今まで、こんな風に誰かのことを考えたこともなかったから。俺は、もうこれで十分腹いっぱいなの。ていうか、なんで蒼井がそんな顔すんだよ。ほら、もう帰ろ?」

 銀也は施錠を確認するために窓際へと向かう。窓にうつる蒼井が、何か言いたげな様子には見て見ぬふりをして、さえぎるようにカーテンを閉めた。

「蒼井、家どっち?」

「俺は杉浦町のほうです」

「そっか、逆方向なんだな。それじゃ、また明日な」

「はい。あ、あした夕方定例会なんで、忘れずに放課後来てくださいね!」

 銀也が一瞬面倒くさそうな顔をしたのを見逃さずに、釘を刺す。蒼井が手を振って歩き出した姿を確認して、踵を返した。