……まさか。
そんなことがあったなんて。
「まぁ私は、望月くんが知っているように、両親が離婚して、私は倉田姓になって、他の学校に移った。
アヤメも姉である椿さんが通っていた中学に移ったの。
どうしてアヤメは中学校を変えたんだと思う?」
「……椿さんと同じ学校に行ったんでしょう?
河西家の方針なんじゃないですか?」
「ううん違う。
そのまま時間が進んでいたら、アヤメは望月くんと真幸が一緒に通った中学に通ってた」
「……じゃあ、どうして」
「アヤメ本人も忘れていたし、椿さんもきっと触れないって決めているんでしょうねぇ」
「……何を」
「アヤメ、小学生の時、階段から落っこちて記憶を失ったの」
……記憶、喪失ってやつか?
まさかアヤメに、そんなことが起きていたなんて。
「椿さんを初めとしたアヤメの家族は、アヤメに何か辛い出来事があったから、自己保身のために忘れたんじゃないかって判断してね。
椿さんが通った中学に転校して行ったの」
「そう、だったんですか……」
「アヤメにその頃起きた辛い出来事、わかる?」
俺は首を振った。
アヤメが小学校にいたことさえも覚えていないんだ。
辛い出来事なんて…俺にわかるわけがない。


