「アヤメは、ある日階段を踏み外して落っこちたの。
それで少し、記憶が飛んじゃったの」
「……そんな」
「でも忘れたのはほんの一部。
私のことと、クラスメイトのことと、好きだった人のことだけ」
「……好きだった人?」
「そう。
当時アヤメは、ある人が好きだったの。
嘘をついてまで、近くにいたかったんだよ」
「……嘘?」
「そう。
自分は河西彩愛じゃないって…ね。
別の人の名前を名乗った時、私近くにいたんだけど。
凄く驚いたよ。
河西彩愛って本名を名乗っていないんだもん」
「どうして……」
「アヤメが当時名乗った名前の本当の持ち主は、凄く可愛かったから」
アヤメが少し顔を歪める。
もしかして、わかっちゃった?
アヤメが当時、一体誰の名前を名乗ったのか。
「……」
「アヤメは当時図書委員をしていたの。
そこでよく本を借りに来ていた男子にアヤメは恋をした。
だけど自分に自信はなかった。
同じ図書委員に、とっても可愛い女子がいたから。
その男子が初めて声をかけた時、アヤメはその子の名前を名乗ったの。
私もその時図書室にいたんだけどね?
……よっぽど好きだったんだね?男子のこと」


