狼狽える燈子に、三鷹社長は心持ち距離を詰めると、いたずらっぽく囁いた。

「“社長” と呼ばれるのは面白くないね。
今からは
『ヒトシさん』とでも呼んで貰おう」

「ウェッ?!
 むむむ無理ですよ私、社長にそんな…」

「困ったね。
 じゃあ、言いやすくよう。これは業務命令だよ、赤野燈子」

 ギョウムメイレイ…

 これで逃げ場はなくなった。羞恥と恐れに震えながら、燈子は小さな声で囁いた。

「ヒ、ヒトシ…さん」

「私は?君を何と呼ぼうか?」

「燈子…」


 三鷹社長が、燈子の肩にそっと手を回した。
 
 男の人のファーストネームなんか呼んだのって久しぶりだ。
 なんだかまるで…本当に社長の恋人にでもなったみたい__


 燈子はまるで催眠術にでも罹ったように、その囁きに酔いしれた。