「大神課長、これを。
社長からことづかって参りました」

 ドカッ。

 松嶋は、ちょうど大神が肘をついていたすぐ横、デスクのど真ん中に、小さなUSBメモリを叩きつけた。

 うおっ!
 大神はギリギリで肘を避けると、呆気にとられて彼女を見上げた。

 間髪いれず、
「それと、社長から伝言がございます」
 凄みのある冷ややかな笑みを浮かべた彼女は、流麗な口調で手にしたメモを読み上げる。

「『業務課、赤野燈子は所用につき早退』
この旨、大神課長に伝えおくようにと承っております。
…では」
 折り目正しくお辞儀をした彼女につられ、大神もペコリと頭を下げる。

「それはありが…いぃっ!」

 途端、大神の顔が苦痛に歪んだ。
 彼が頭を下げたと同時に、松嶋がその足を思いっきりピンヒールで踏みつけたからだ。
 
 辛うじて悲鳴を堪えた彼が、涙目で睨み付けると、彼女はさらにグイグイとそれをめり込ませながら耳元で低く囁いた。

(この…クソが)
 
 たっぷり5秒の責めの後。

「では、ごきげんよう」
 松嶋七緒は大神に一礼し、颯爽と課を去っていった……

 大神は、表向きには松嶋七緒の交際相手なんである。
 しかしその実態は、松嶋は社長の愛人で、大神はそのダミーだというドロドロな人間関係。

 だが、そんなコトとは知らない課員達は、声を潜めて噂した。

(美し怖い…)
(何、痴話喧嘩?)

 
「これは…事件ですわね」

水野女史の眼鏡が、キラリと光った。