あれから何日か経ったが彼とは話していない。
状況も変わらないでいた。
四時間目の授業が終わり、ふと私は日向順を目で追った。
彼の席は真ん中の列のぴったり真ん中の席。
なんだか彼らしいと思う。
クラスのムードメーカーだから。
神崎瞳と隣の席でよく喋る。
彼女は胸あたりまでの髪を巻いていて、イケイケ女子の部類の子。
前髪も胸あたりまである。
なんだか二人から目が離せない。
彼等のところに順の友達が集まってきていた。そして瞳の友達も…。
「田中さん」
「はっはい!」
急に声をかけられ振り向くと、後ろの席の子だった。
確か寺田沙也加だ。
「これ、落ちてたんだけど田中さんのかと思って」
ピンクのシャーペン…
これもオシャレに見えるからって始業式の前に買ったものだ。
「あっ……どうも」
暗い声が漏れた。
そのままシャーペンを受けとると前を向いた。
本当はそんな風に言いたくない。
彼のように太陽のような笑顔で言いたいの。
私はもう一度後ろを振り返った。
「ほんとうにあ、ありがとっ!」
声が裏返ったし、突っかかったし、太陽のような笑顔とは裏腹に少し怒った顔になった気がする。
恥ずかしい。
でも、彼女は少しポカンとしたあと、にっこり笑った。
「そんな大げさな。面白いね、田中さん」
言葉、返してくれた!
嬉しくてまた体温が上がった。
でもまだ目はそらしたくない。
「ほ、ほんとですか!」
「うん、びっくりした。あっ、私の名前わかる?」
「はい!寺田さん…」
「よかった。私おぼえてもらってないと思ってた」
あれ?話せてる?
「沙也加って呼んで」
寺田さん…いい人!!
小動物みたいで可愛い!
「わ…私も美月って…」
「うん、美月ちゃん」
こんな近くに私と目を合わせてくれる人がいるなんて…
「私、美月ちゃんと話してみたかったの」
「えっ?」
「この席、話せる子いなくて」
小さい声で沙也加ちゃんは呟いた。
私も確かにと少し思った。
私たち以外の周辺の席の子はみんなでワイワイ話していて、とても仲が良い。
でも私にはその話題も面白さもわからなかった。
「せっかくの高校だもん、色んな人と話したいんだけどね」
「わ、わかります!」
「けど…人と話すの苦手で」
沙也加ちゃんがっ!
私は驚いて口が開いた。
私の記憶だと沙也加ちゃんも今の席の周辺の子と仲良く話していたから。
「そんな…」
「ほんと、ほんと。人と話すのは好きなんだけど上手く出来ないんだよね」
その一言に胸がぎゅっと締め付けられた気がした。
そういえば私も人と話すのが嬉しくて楽しかった。
小学校までそう思ってた。
でも段々、話しかけられなくなって、話しかけれなくて、せっかく話しかけてくれても会話がすぐ終わったりして、自信がなくなって…
いつからか話されるのまで怖くなった。
ずっと本当は話しかけて欲しかった。
話しかけたかった。
話題がなくてもつまらなくても話しかけて欲しかった。
でも自信がなくて、不安で、殻に閉じこもってたんだ、私。
なぜか自然と涙が流れてきた。
「えっ?美月ちゃん!?」
「ご…ごめん。私…」
何て言ったらいいのか…
でも涙が止まらない。
「ちょっと、美月借りるね」
耳元で聞こえてきた声に私は驚きを隠せなかった。
急いで涙を袖で拭く。
どうしよう、こんな姿見られたくない。
そう思った矢先、彼は私の腕を掴んだ。
たちまち意思とは関係なしに、私は席から立ち上がっていた。
「あ…あの!!」
順はなにも言わなかった。
彼の背中だけが見える。
どんな顔をしているのか、気になって仕方がない。
彼は教室のドアを開いた。
その先に行ってもいいのか、と不安になる。
でも不思議と嫌な気分がしなかった。
胸がうるさいだけだ。
ふと見た窓に飛行機雲が見えた。
