午前2時。
この時間は幼い頃から自然と目が覚める時間だった。

何故かは分からない。

私の一日の始まりはいつもこの時間。

かけてあった布団を退かしながら、体を起こす。
まだ見慣れない部屋に、一瞬変な感覚を起こす。

「あぁ…そうか」

部屋の中、呟いた声がこだまする。


今まで育ってきた孤児院から離れ、今日から一人暮らしをする。
寂しくもないし、未練もない。鬱陶しかった肩の荷が、今はなくなり正直楽だ。

あんな所、もっと早くに出て行きたかった。
法律がなんだって、周りの奴等が五月蝿かったな。


まだ肌寒さが残る4月。
黒のショートパンツに白いTシャツに着替え、紅と金の龍の刺繍が背中に入ったパーカーを羽織って、黒のブーツを履く。
部屋の鍵を持つと、一度だけ部屋を振り返って外へ出た。

「寒いな…」

腰まである赤茶のストレートの髪が風になびいた。
空が少しずつ明るくなっている事に、足元の影を見て思う。


誰の連絡先も入っていない携帯端末機に電源を入れて時刻を確認する。

もう4時か…。
確か、9時から入学式だった気がする。

…戻るか。


しばらく歩いてきた道をくるっと回って戻ろうと足を動かす。

「ニャア」

振り返った道の先、スタイルのいい黒猫が座っていた。
道路の真ん中、金色の瞳をじっと私に向ける。


「…お前も、ひとりぼっちなのか?」
そっと呟くように黒猫に聞くと、それに応えるかのように
「ニャア」
と鳴いた。
「…そうか」


こいつも、私と同じなのか。


「…お前、家に来るか?」
「ニャア」


「おいで」


そっと手を伸ばす。


黒猫はまるで、母親を待っていたかのように、駆け足で私の元に飛び込んできた。