祖母が向かったのは、遠く離れた県の小さな街の孤児院。
その孤児院の扉の前に、子供を置いた。


目をぱちくりさせ、静かにじっと祖母を見る赤ん坊。
まるで、これから祖母が何をするのか分かっているような瞳だった。


祖母は何も言わず、赤ん坊を残して去って行った。
彼女が亡くなった今、赤ん坊は不要だと。
赤ん坊の女の子を、寒い冬の中に取り残して…。



そこから数年後、祖母は亡くなり、女の子の身内は誰ひとりいなくなった。



孤児院で問題を起こすこともなく育ってきた女の子は、小学校に上がる頃には自分は捨て子だという事も、身内がいない事も、理解していた。



女の子は他の孤児院の子の様に、親を待つつもりもなかった。
待っていても来ない事を知っていたから……。