「梅崎[ウメザキ] 恭弥」


チケットを買うために列に並んでいると、彼は不意に口を開いた。



「え?」


「俺の名前。言ってなかったろ?」



穏やかに微笑む彼には、何度見ても鼓動が早くなる。

わたしって、こんなに面食いだったかな。



「あ、わたしは...」


「知ってるよ。芸名も本名も一緒の藤井 志保だろ?」


わたしも自己紹介をしようとしたのに、先に彼が答える。


「志保って呼んでもいい?」


「俺のことは恭弥でいいから」

と笑う彼の笑顔に、胸がちくりと痛む。



わたしは藤井 志保じゃないのに。


彼の目に映るわたしは、松永 直じゃない。