振り返ると、目の前の光景に驚いた。
な、なんで?
「……」
あたしは身動きもとれずに、掴まれた腕が震えていることに気付いた。
だけど。
それは、あたしが震えてるんじゃなくて。
ドクン
ドクン
「…………ちぃちゃん」
ちぃちゃんの手が、震えてるんだ……。
見下ろした先には、唇をきゅっと噛みしめたちぃちゃんがいた。
どうして?
どうして、そんな顔してるの?
「あ……今日のケーキは特別なんだ。 柚子の皮が入っててね? だから、一口だけでも、ね?」
「……あ、うん」
パッと手を離したちぃちゃんは、いつもの笑みを浮かべてあたしにケーキを取り分けてくれた。
その様子を立ったまま眺めていたあたしは、なぜか動き出せずに。
ふと視線を上げると、ぼんやりとちぃちゃんの姿を見るヒロが目に入った。
「ほら、座って。 あと、このクッキーは持って帰って?あたしが焼いたの」
「……。 ありがとう。 うわー、おいしそう! てか、このクッキー超かわいい! 王様の形だあ」
「ふふ。 でしょ?」
バフッともう一度ソファに腰を落とすと、ケーキのお皿を手にした。
なぜかわからないけど。
ちぃちゃんが、何かをあたしに伝えようとしてる。
だから、ヒロの存在は怖いけど。
だけど、あたしは笑った。
ただ、なにも考えずに笑っていた。
それしか、できなかった。