「あ」



あたしは玄関のドアノブに手をかけると、思い切ってそれを開けた。



「うす」

「……大樹?」





――そう。

そこにいたのは
二カッとぎこちない笑顔を見せた大樹。

大樹はあたしと目が合うと、なんだか気まずそうにまたすぐ逸らしてしまった。




「どうしたの?」

「え? あー……なんつーか……お、お前ちゃんと勉強やってるか?」

「勉強? うーん…やろうと思って、教科書広げたはいいんだけど。なんか集中できなくて」




うん。

やろうとはしてた。


だけど……ダメなんだよなぁ
全然集中できなくて。


もう!

全部 ヒロのせいなんだからねッ!



出てきたら文句言ってやるんだからッ




唇を尖らせたあたしを見て、大樹は不思議そうに首を捻った。
それから少しだけ考えるように首元に手をやると、意を決したように小さく息を吸い込んだ。



「あのさ……ユイ」

「うん?」

「…………」


そう言ったきり、押し黙ってしまった大樹。

……なに?



「大樹?」


俯いてしまった大樹を覗き込むように見上げた。
逆光になった大樹のその表情ははっきりわからなくて
あたしは少し目を細めた。

大樹の短くセットされた髪が、太陽の光に照らされてキラキラと揺らいでいる。


まるで陽炎のようにそれは姿を変えているように見えた。




「…………この前さ」



不意に顔を上げた大樹。
視線がすぐに絡まって、あたしは捕まった。


それは真剣そのもので。

大事な事を言おうとしてるんだと、すぐにわかった。