部屋にひとりならこのドアを開けて、せめて玄関先にでも俺を入れてくれてもいいんじゃないのかな。
そうしたくない理由があるのか。
いずれにしても、無理やり押し入るのは絶対ダメだ。
彼女に嫌な思いはさせたくない。
もうこのままドアを隔てた状態で話を進めよう。
「あのさ、佑梨」
俺は静かに、でも雨音には負けないような声のトーンで話しながら、佑梨の目と自分の目を合わせた。
やっぱり彼女の目は不安げだった。
「別に恋人解消を引き止めるつもりで来たんじゃない。そうしたいと思うならそれでいい。でも…………、何かあったんじゃないのか?」
この話を持ちかけたとき、佑梨は最初は戸惑い、そして断ろうとしていた。
だけど途中から吹っ切れたように投げやりに引き受けた。
そこから始まったこの関係だったけど、彼女が嫌がっている様子はあまり見られなかったと思う。
ちょくちょく俺が失礼なことを言おうとも、それで怒ることがあろうとも、なんだかんだで元に戻った。
約半年という約束のうちの、まだ半分の期間だけしか過ぎていない。
この数ヶ月で、お互いに何を分かり合えただろう。
分かり合えたのは、それぞれの恋愛の痛みくらいだったんじゃないのか。
いや、そもそもそんなにお互い興味を持っていたかどうかと問われるとイエスとは言えない。
俺も、佑梨も。
俺は彼女を自分のプライドのために利用し、彼女はそれに流されるまま引き受けただけのこと。
最初からそこには特別な感情など有りもしなかった。
佑梨は目を伏せた。
俺と合っていてはずの目が、足元を見下ろしている。
そしてその状態で彼女はボソッとつぶやいた。
「好きな人が出来たの」



