佑梨の住むアパートに着いて、約1ヶ月前にも停めたあたりに車を置いた。
車に傘を積んでいなかったので、また雨の中を駆け足で通り抜けてアパートの1階の通路に入り込んだ。
薄暗い通路には、3つほどこれまたぼんやりとした灯りがついていて。
6つ並んだ部屋をザッと眺めた。
奥から2番目の105号室が彼女の部屋。
反対側から確認するのを忘れたけど、彼女が家にいるのか通路側からは分からない。
軽くストーカーじみてないか、俺。
こんなこと、沙織にはしなかったのに。
一方的に電話を切られたってことは、佑梨は俺に会いたがってない。
それくらいは考えなくても分かることだ。
でも、急にあんなことを言い出してきた理由を聞くくらいしたっていいんじゃないか。
105号室のドアの前に立ち、携帯をポケットから取り出して佑梨へ電話をかけた。
雨の音がうるさくて、部屋の中の音とか生活音は一切こちらには聞こえない。
もしもいなかったら、車で少し待つか。
そんなことを思っている俺の目の前のドアの内側で、カチッとやけに響くような音が聞こえた。
鍵を外した音だったらしい。
外を伺うように、ゆっくりドアが開く。
細い隙間から、不安げな目をした佑梨が俺を見つめているのが見てとれた。
彼女も俺と同じように、片方の手に携帯を持っていた。
顔の半分ほどしか見えないくらいの隙間で、ドアの向こうの彼女が困ったような顔をして笑った。
「どうして……来たの?」
本当はドアをグイッと開けて、ちゃんと正面向いて話をしたかったけど。
なんだかそれはしちゃいけないような気がして、俺は電話を止めて彼女の半分しか見えない顔をじっと見つめた。
「誰か来てるなら帰るよ」
「……ううん。誰もいない。私ひとり」



