「望月の彼女ってどんな子なの?」
何の気なしに尋ねてくる扇さんに、佑梨のことを話そうとして即座に言い詰まった。
たった半年間の約束という、嘘で塗り固めた仮初めの恋人。
その水戸佑梨が今何をして、どんなことを考えているのか知りもしないのに。
そんな彼女を、他人に「俺の恋人です」って話してもいいのか?
もともとは、俺のエゴで提案したにすぎないのに。
複雑な思いに駆られながらも、なんとか佑梨を『恋人』として話す。
「普通の人ですよ。ちょっと強がりで、意地っ張りで、寂しがり屋で、部屋が殺風景で……」
「うんうん、あとは?」
「あとは……」
あとは、知らない。
彼女のことは、よく分からない。
ちっぽけな関係。
ハンドルを握る手に力を込めて、話題を違う方向へ逸らす。
最近よく考えること。
扇さんなら答えてくれるかもしれない。
「扇さん。今の奥さんを好きになった瞬間ってどういう時ですか?」
「んん?好きになった瞬間?」
「覚えてますか?」
前方を向いたままなので、扇さんがどんな表情をしているのかは見えない。
でも、彼が缶コーヒーを口に運んだのは視界の隅に見えた。
「だいぶ前だから好きになった瞬間なんて覚えてないなぁ。とりあえず覚えてるのは、付き合う前に二人で出掛けて、もう帰る時間だってなった時かな」
「帰る時間?」
言ってる意味が分からない。
怪訝な顔をした俺の顔を見たからか、扇さんは吹き出していた。
「おいおい、お前にも彼女がいるなら分かるだろ?別れ際になると、もっと一緒にいたいとか、そばにいたいって思わないか?好きになった瞬間っていうよりも、そっちの感情の方がけっこう重要だと思うぞ、俺は」
へぇ……。
そういうものなのか。
沙織を好きだった当時、そんな感情を抱いていたのかすら覚えていなかった。
忘れようとして、記憶から消し去ったと言った方が正しいのかもしれないけど。



