ひょこっとドアから顔を出して通路を覗き込んだら、ちょうど弘人がそばまで来たところだった。
あ、と私が声を出すと、彼は少しだけニヤッと笑った。


「可愛いところあるじゃない。呼び出すなんて」

「ち、違…………くないです」


顔を半分だけ覗かせて恨めしい気持ちいっぱいで弘人を睨んでいると、彼はクンクンと鼻をきかせる。


「いい匂い。風呂上がり?」

「だって来るなんて思ってなかったんだもん」

「なにその発言。完全に悪女だね」

「……そんなんじゃないよ」


否定したあと、ゆっくりとドアを開けて玄関へ彼を招き入れた。


「申し訳ないけど、玄関までで」


私の思惑を察したらしい弘人は、「仰せのままに」と肩をすくめて玄関に入ってきた。
ドアをバタンと閉めて、ひとまず2人きりになる。


「佑梨から連絡してきたのは初めてだったね」


ドアに背をつけてそう言ってくる彼の服は、完全に部屋着だった。
グレーのスウェット上下に足元はサンダル。
電話を受けて、そのまま来たということがうかがえる出で立ちだった。


私はそんな彼の姿をぼんやり眺めて、そして敦史と重ね合わせた。
いや、重ね合わせようとしたってちっとも重なってなどくれない。


こうやって敦史が着の身着のまま私に会いに来てくれていたら、どんなに良かっただろう。
「会いたい」と伝えてすぐに駆けつけてくれていたら、この17年の片想いが救われたんじゃないのかな。