「結局私は……、誰でも良かったってことなのかな……」


思っていたことが無意識に口から漏れてしまって、慌ててボールペンを投げ出して両手で口を覆った。
それを吉川さんが見逃すはずもなく。
挙動不審な言動をした私を、隣の席からじっと見つめていた。


「どうしたの~?ここ最近、いつにも増してぼんやりしてること多いよね~」

「す、すみません」


急いでカウンターの奥にすっ飛ばしたボールペンを取って、束になったレセプト用紙にかじりつく。


彼女には伝えてあった。
あの日の合コンで、浅野さんとちょっとしたトラブルになった話。
事細かに説明しなくたって吉川さんにはピント来たみたいで、「大丈夫、次行こ!次!」と明るく返してきただけで済んだ。


そしてそのあと、はぁっ、とため息をつきながら合コンの収穫はゼロだったことを長々と愚痴っていたんだった。


つまり、私たち2人は大した成果を挙げられなかったということ。


「もうこうなったら結婚相談所にでも行ってみようかな~」


とつぶやく吉川さん。
彼女だって今年で29歳。
なんだかんだで結婚に焦っているらしい。
彼女が私にしてくる会話と言えば、1に恋愛、2に恋愛、時々雑談、基本恋愛。
これだけメイクやファッションに気を遣ってる人が恋人をなかなか作れないというのだから、私にはいつ出来るやら。


吉川さんは私と同じくらいの束になったレセプト用紙を指で弾きながら、退屈そうに口を尖らせた。


「こうやってさ、真面目にコツコツ仕事してたって出会いがあるわけでもないしさ。家に帰ってご飯食べてお風呂入って、そんで一人でベッドに寝るとさ、な~んか無性に寂しくならない?」

「…………そうですね……」


曖昧にうなずいた私は、半年前の自分を思い出した。


家は隣なのに、外に出てドアを開ければ敦史に会えるのに。
そうやすやすと「会いたい」と言えなくて、ずっと我慢してきた17年。
でもその分、彼に「会いたい」と言われたときの喜びといったら私を震えさせるほどだった。


今は引越して一人暮らしをして、簡単に会える距離ではなくなったこと、そして携帯の番号などを変えて連絡手段を遮断したことで、敦史とは一線を引いたので会いたくても会いようがない。


吉川さんの言う通り、孤独感を感じないと言えば嘘になる。