そこからは躊躇いなど無かった。
彼女が嫌がらなければキスをするつもりで顔を近づけた。


暗い車内で初めてこんなに近くで見る佑梨の顔は、出会ったときと同じ印象だった。
綺麗な人だ。


「抵抗するなら今だよ」


抵抗しないとキスするよ、という意味を込めて彼女に伝えたら、少し表情が強ばったのが見えた。


嫌ならそう言っていい。
突き飛ばしてもいい。
殴ってもいい。


そう思っていたのに、彼女はどこか見透かしたような目で微笑んだ。


「だって弘人もファーストキスでしょ?」

「………………そうだよ」


答えながら、見え透いた嘘をつき合う俺たちは何なんだろうと頭の片隅で考える。


好きで好きで想い続けた沙織以外とキスをするのは、佑梨が初めてだった。
だけどちっとも緊張しなかった。


彼女が悟ったのを感じたからだ。
俺と佑梨は似た者同士で、同じ境遇ってことに。




最初に触れるだけのキスをしたら、佑梨の体が僅かに震えた。
でもそれは本当に一瞬のことで。


気がついたら彼女の体を抱き寄せていて、彼女も俺の首に腕を回してきた。


どう考えてもお互いファーストキスじゃないだろ、と笑いそうになるほどの熱いキスは、意外にも愛しい気持ちが胸に込み上げた。


しばしの間、深いキスを交わしていた俺たちが顔を離したとき。
俺と佑梨は何も言わなくても理解し合った。


あなたは、好きな人の『2番目』にしかなれない人だったんだね━━━━━。






佑梨が最後に俺の左手に右手を重ねてつぶやいた言葉が、忘れられない。
「嘘つき」と。