叔父に見初められた「部下の娘さん」って女も、よっぽど相手が見つかんないんだな。
見合いなんかに頼るほど、男に飢えてるんだな。
そんなに恋人が欲しいのかよ。
バカバカしい。


引き受けなかったらそれはそれでこの先ずーっといつまでもグダグダ見合い話をすすめられて、よく分かりもしないくせに「彼女いない歴=年齢」とバカにされるんだろう。
叔父は思い込んだら一直線、ってところがあるから、母にも余計なことを吹き込んでいそうだ。


面倒だから会うだけ会っておくか。
どうせ叔父の好みに合う女なんて、古くさい田舎じみた女だろうけど。


「…………分かった。4月17日ね。シフト変えてもらうから」


仕方なくうなずいた俺の反応を見て、叔父と母が目を輝かせて顔を見合わせたのを見逃さなかった。
相当2人で打ち合わせしておいたんだろう。俺に断られないように。


「その代わり」と、2人に詰め寄った。


「こんなことはこれっきりだ。あとはもう放っといて」

「はいはい、分かりました~」


生返事とは言え、ウンウンうなずく2人をギッチリ睨んでおいた。


俺がリビングを出ていったら、親戚一同で「上手くいくといいなぁ」「ついに弘人に初の恋人かなぁ」とか口々に話しているのが丸聞こえだった。


広い廊下の壁に背をつけて、携帯の画面を開いて着信履歴を確認する。


『尾野沙織』


という名前が、必ず1日に1回バラバラの時間帯に電話をよこしていた。


彼女からの電話を、今年に入ってから取った記憶が無い。
全く反応しないこちらの思いは無視して、彼女は変わらず毎日電話をよこすのだった。