弘人は、恋人というよりも友達みたいな存在になりつつある。
美鈴ほど打ち解けてはいないけれど、気を遣わないで話せるようになっていた。
彼が前に言っていた、私が敬語を使ったり、何かにつけて丁寧に受け答えするのが「面倒」。
確かにそういう他人行儀なのを取っ払ってしまったら、あとに残るのは本当の自分なのかもしれない。
ベッドに寝転がって携帯をいじる。
ここ最近の私の着信履歴は、実家の母、美鈴、そして弘人。
弘人はなんだかんだでひょこっと私の生活に入り込んできたなぁ、と履歴を眺めながら思った。
私から食事に誘ったりはしない。
自発的に彼に会いたいとも思えない。
ただ話し相手になってくれるという点では、まぁアリかな、とは思うけど。
踏み込んだ話をしたり突っ込んで聞いてくることがなければ、の話。
あのお花見の時のようなことを言ってこなければ……。
これといった趣味も無い、毎日の楽しみも特に無い私は、仕事をこなして家に帰るだけの日々。
このままじゃ敦史のことを思い出す隙間が出来ても仕方ない。
忘れられるほど、夢中になる何かを見つけたいな━━━━━。
敦史と離ればなれになって、枯れるほど涙が出るんじゃないかって思っていた私。
勇気を出して「会いたい」と言って、彼に「無理」と言い捨てられた時でさえ泣かなかった。
私の涙はどこに行ったんだっけ。
悲しいのに、涙が出ないって不思議だな。
携帯を適当にそのへんに投げ出して、枕に顔をうずめた。



