「嫌われてもいいなんて思いながら話なんか出来ないの。適当になんて話せないの。こんな私を好きになってくれる人なんていないんだから。私はいつだって……」


言いかけて、口をつぐんだ。


どこまでも続く綺麗な桜並木を前にして、どうしてここでこんなくだらないことを彼と言い合わなければならないのか。
そもそも弘人に私のことを知ったような口を叩かれたのが要因なんだ。
会ってまだ2回目の人にとやかく言われたくなかった。


それなのに、弘人は足を止めて私の顔をしっかり見つめてこう聞き返した。


「いつだって、の続きは?」

「…………言いたくない……」


私は胸が苦しくなって、喉が詰まりそうになって。
それ以上は何も言えなかった。


━━━━━私はいつだって、好きな人の『2番目』だった。


それは、いくらなんでも口にしたら泣いてしまいそうで言えなかった。










望月弘人は、数時間前まで顔も名前も曖昧な「ナントカさん」だったくせに、「弘人」という名前を強烈に私に印象づけた。
それもこれも彼が焚き付けたのがいけないんだ。
きっと私の「分厚い仮面」ってやつを剥がそうとしてあんなことを言ってきたのかもしれないけれど。
まんまと引っ掛かってしまったわけだ。


彼が食べたいと言っていた玉こんにゃくは、私も強制的に食べさせられた。
売店のおばちゃんによって大量の辛子がつけられたそれを、彼はパクパクと大口で食べて一瞬で無くなったけれど、私は涙目になりながらどうにか完食した。


どこへ行くにも人混みをかき分けなければ行けない大混雑の中で、私と彼は適度な距離を保った状態で『恋人との初めてのデート』とやらを終えた。


帰ってから少し後悔した。
あの美しい桜並木を、携帯のカメラでもなんでもいいから撮っておけば良かったな、と。