2番目じゃなくて、2度目の恋



美鈴と別れたのは夕方の5時だった。
彼女はあくまでも専業主婦であって、夜まで遊び歩くのも旦那に悪いからと言うので引き止めることなく帰した。


彼女の旦那さんには何度も会った事があるけれど、優しさに満ち溢れたような人だ。
社交的な彼女の性格を理解していて「友達と出かけておいでよ」と口癖のように言ってくれるらしい。
それを言われると、逆に家で美味しいご飯を作って彼を待ちたくなるのだと美鈴が話していた。


お互いを1番に考えて想い、相手への思いやりを忘れない。
多少のワガママも平気で言えて、素直に甘えられる存在がすぐそばにいるなんて羨ましかった。


地下鉄を降りて、アパートまで歩く最中に携帯へ着信が入った。
バッグから取り出すと、着信の相手は母だった。


そういえば、望月さんとのお見合いのあとに1度電話が来て「どうだった?」と聞かれたのだった。


「お付き合いすることになったよ」と伝えると、電話の向こうで父と母が歓声を上げているのがよく分かり、私は呆れてものも言えなかった。
そこまで喜ぶなんて、よっぽど娘はモテないと思っていたんだろうな。


父も母も、今までに私に恋人がいたことが無いというのは知っている。
敦史とそういう関係だった、というのはもちろん知らないんだけど。
たぶん、恋愛に関しては右も左も分からない初心者くらいに思っているんじゃないかと。
当たってはいないけど、外れてもいない。


望月さんが言っていた通り恋人が出来たと言ったら、私の結婚を心配して口うるさく心配していた両親がパッタリと何も口出ししてこなくなった。
これはこれで凄い効果だ。
いい加減電話をとるたびに「彼氏くらい出来たんでしょうね?」と言う母の言葉を聞くのにうんざりしていたからだ。


しばらく携帯の画面を見つめていたものの、あまり待たせるのもなぁ、と思って電話に出ることにした。


「はい、佑梨です」


と電話を耳に当てると、母の明るい声が聞こえた。