無機質なコール音が続くのを聞きながら、ひたすら「出てくれ」と祈った。


なんで今さら俺から電話が来るんだ、と驚いているだろう。
しつこい男だと思ってるかな。


なんだっていい。
理由はマイナスでもいいから、頼むから出てくれ。


長い長いコールのあと、その音が途切れた。
一瞬、留守番にでも切り替わったのかと思ったけれど、そうではなかった。


数秒の沈黙のあと、探るような、戸惑うような佑梨の声が聞こえた。


『あ、あの……。水戸ですけど……』

「こんばんは。望月です」


なんでわざわざ名乗ったのか、すぐに分かった。
俺の番号を携帯から消していたのだ。
きっと誰からの電話か分からなくて、でも長く鳴らすから知り合いだと思ったから出てくれたに違いない。
だから俺も名乗った。


俺の名前を聞いた途端、佑梨が息を飲んだ。
そして、それきり言葉が聞こえてこなくなった。


「今から会えないかな」


ヤバい。
柄にもなく緊張している自分。
妙に不安に駆られている。
声に表れてるんじゃないかとつい心配になる。


拒否されたらどうしようもない。
強行で家まで行くのは気が引ける。
それこそストーカー扱いされそうだ。


電話の向こうの佑梨は、かなりの時間黙っていた。
何かを考えているのだろう。
答えを急かすつもりもなくて、ひたすら彼女の返事を待った。