ファミレスを出て、車の鍵を手にした彼が駐車場を指差しながら私に


「家、遠くないなら送っていこうか」


と言ってくれたけど、大丈夫です、と断った。
早く1人になりたかったから。
即刻断った私に対して、食い下がるわけでもなく気にした様子もなく、あっさりと駐車場へ行こうとする彼の背中に声をかける。


「望月さんって、本当に女性と付き合ったことないんですか?」


暖かな春の日差しを受けて眩しそうに顔をしかめた彼が、こちらを振り返る。
右手を額のあたりにつけて日差しから顔をかばいながら、最初に見せた冷めたような微笑みを浮かべるのが見えた。


その笑い方、嫌いだな。
なんとなくバカにされているような感覚に陥る。


そんな私に彼が微笑んだまま言葉を返してきた。


「それはこっちのセリフなんだけど」

「私は本当です。男性と付き合ったことはありません」

「うん。俺も女の人と付き合ったことが無い。偽物だとしても、あなたが初めてだ」

「でも女性と話すのも連絡先を交換するのも慣れてませんか?」


そう思ったからそのまま言っただけ。
彼の話し方には余裕が感じられたし、うまく言えないけれど…………。
私と同じ空気を纏っているような気がした。


「浮気はしないよ」


全くもって検討ハズレの返答を耳にして、私は眉を寄せた。


胡散臭い、と何度思ったことか。
望月弘人という人は、本当に胡散臭い。
でも、きっとそれは彼も同じように感じているのだ。
私を胡散臭い、と思っているに違いない。


「じゃあ、半年間よろしくお願いします」


黙ったままの私に、彼は静かにそう言って駐車場の方へ歩いていった。
彼が言う「半年」という期間。
どうして「半年」でなければならないのか少し引っかかったけど、それもどうでも良くなった。
また『あの人』を思い出しかけてしまったから。









どんな形であれ、彼は30分ちょっとで私の恋人になったのだ。
こんなことがあるのだと不思議になった。


私の17年はなんだったのだろう、と━━━━━。