『弘人……』
すぐに電話に出た沙織の声は、弱々しく震えた声だった。
何かにすがりつくような、助けを求めるような声。
この話し方は、もう飽きるくらいに何度も何度も聞いたことがある。
彼女が愛を求める時だ。
『ねぇ、お願い……。会いたい』
彼女のお願いを、俺は幾度となく受け入れてきた。
支えになるなら、少しでも寂しさが紛れるなら、と。
幼なじみでもあり、婚約者でもある圭と何かあったんだろう。
おおかた浮気性の圭と喧嘩をしたんだ。
その時、必ず俺に連絡が来ていたから分かる。
もうダメだ。
沙織とちゃんと話をしないと、取り返しのつかないことになる。
「今どこ?行くから」
『東口のカフェにいる』
「…………分かった」
行かなかったら行かなかったで大騒ぎするのは目に見えている。
俺は電話を切って、すぐにアパートを飛び出した。



