最初はただの欝陶しいオッサンだと思ってた。 だけど奏次郎の写真が好きで、奏次郎の話が聞きたくて。 気付けば奏次郎は私の唯一会いたいと思う人だった。 私はなんだか馬鹿みたいにその場に立ち尽くす。 「明日で個展も終わりだ。ありがとな、綾香」 言わなくちゃいけないことがあるはずなのに、シャボン玉みたいに浮かんでは弾けていく。 俯く私の髪を奏次郎はまた撫でる。 “ありがとう”も“さよなら”も胸がつまって言えなかった。 だけど明日の最終日、個展だけは絶対見に行こうと心に誓った。