朝のHRが終わり、友達の佐原亜希(サハラ アキ)が声を掛けてきた。

亜希は背が高くスラッとしている。
肩まである髪をいつも一本に束ねていて、ポケットにはアメが大量に入ってる。


「咲ー
もう寒いね
私の時期がやって来ちゃった!」


「それって秋と亜希をかけてるつもり?」


「正解!!」


亜希は天然で、たまに日本人だよね?って思うことがある。


亜希と知り合ったのは、高校一年生の入学式の日。
同じクラスで、少し人見知りしていた私に亜希から声を掛けてくれた。


「それよりあの転校生、咲の知り合い?」


「全く知らない
女に興味ないとか言ってる意味分かんないヤツだよ」


「そっかぁ!
でも、性格が悪くなかったらモテそうなんだけどなー
ちょっと勿体ないね」


亜希が突然ジェスチャーするように、目線で何かを伝えようとしてきた。
何だろう。この視線。


「咲、見られてるよ!
あの転校生に」


「え!?嘘でしょ」


私がそっと隣の席を見ると、そこには久田くんがいない。

見られてるってどこから?

「ほら、教壇のとこ」


亜希にそう言われ少しずつ目線をずらすと、教壇の所には久田くんが立っていた。

何であんな所に・・・


「転校生だから、クラスの中でも見渡してるんじゃない?」


「それはないって!だって彼、咲のこと見て不思議そうな顔してたよ」


「え…」


私がさっき変なことを言ったからかな?
もう一度目線を向けると、一瞬目が合った気がした。


「私が彼に聞いてきてあげようか?
だって気にならない?彼のこと」


「そりゃ気になるけど、でも今はそっとした方がいいんじゃない?」


「それもそうだね!」


そう言った亜希は、チャイムが鳴る前に自分の席に戻っていった。

でもやっぱり気になる。
亜希の言う通り聞いてもらうべきだったかな…。



その後特に変わった様子はなく、お昼休みになった。
亜希がお弁当袋を片手に持ち、こっちに向かってくる。


いつもは隣の席が空いてたから、そこに亜希が座って一緒に食べてたけど、今日はどうしようかなー。


「亜希、どうする?どこで食べる?」


「もちろんここで食べる」


「え?でもそこって久田くんの席」


私が小声でそう喋っても聞こえていないのか、亜希が久田くんに話し掛けていた。

一体何考えてるの?



「ねぇ、久田くんも一緒に食べようよ」


「あのさ、聞いてなかったの?俺、女に興味ないから」


少し沈黙の時間が流れる。



「てかさ、お前誰?」


「私はクラスメイトの佐原亜希です
初対面に対してお前っていうの何か苦手」


「亜希、もう良くない?
飲み物買いに行こう」


気まずい空気になり、間に入って亜希を止めた。
話していない私まで気まずい。



久田海斗。
彼は危険だ。

何を考えているのか知らないけど、女性を傷付けるのが得意そう。


私達はすでに、そんな彼の世界に入りはじめていた。