「ほら、シーソーもある!」
緊張感ある空気に耐えられず、
その場を離れようとした。
瞬間。
「待ーてこら、」
私の手を掴み。
力強く、だけど優しく引っ張って。
「逃げんな」
そう言って自分に引き寄せ、
そっと抱きしめた。
「徹平、さん…?」
あーどうして。
何で抱きしめられてるの。
こんなに近くにいたら、
ドキドキしてるのバレちゃうじゃん。
「こっち」
「えっ…、」
手を引かれ、
生い茂った木々を抜け。
開けたそこには。
「うわあぁ…、すっごい、」
同じ場所に住んでるとは思えない、
綺麗な夜景があった。
どこがどこ、なんて分かんない。
だけど確かに綺麗だ。
「こんな所、あったんだ」
「ここお気に入り」
流れる時間も忘れて、
うっとり眺める。
どれだけ見ても、
飽きない綺麗さが私を包む。
「俺さ、」
鼻をすすりながら。
徹平さんは話を始めた。
「今まで何不自由なく生きてきて」
空気の流れが変わるのが、
分かった気がして。
緊張が増した。
「欲しいものとかもうないと思ってた」
私がこの人と会った時。
私には他に好きな人がいて、
でもその人には会えなくて。
幾度も私に優しくしてくれた、
この人を。
私は何度も避けてきた。
目もくれず、
私は音を届けてくれる人を
想い続け。
だけど気付いたら私の中に、
徹平さんが存在していた。
認めたくない。
だけど事実。
そんな時。
「でも俺、今すげー欲しいと思う人が出来た」
私の想い人が、
心の中の人と一致した。
私が想う2人は、1人だった。
こんなにも人を、
人間は愛すことが出来るのか。
私はそう思わずにはいられない。
「徹平…さん、」
「明香ちゃん」
ジリジリ…と。
一歩ずつ歩み寄るこの人を。
「はい」
受け入れないわけがない。
「明香ちゃんの幸せを守りたい」
「徹平さん…」
「俺と付き合ってください」
こんな言葉を聞けるなんて。
私は刹那、
世界一幸せ者だと思えた。
「よろしくお願いします」
これから待つ未来が、
どんなに明るいだろうか。
幸せが待っている。
私はそう信じて。
疑わなかった。


