そこには、君が







気がつくと辺りは真っ暗で、


もう夜になっていることを示している。


後で家に来いと言った大和から、


10分前に着信が入っていた。


掛け直そうかどうしようか迷っていた時。


ふと、サックスの音が聞こえてきた。







「嘘、…嘘、」






心臓がバクバク鳴り、


久しぶりの音色に心を奪われ、


私は動きを止めた。


止める必要のない息まで止めて、


様子を伺った。


いつも素敵な音色だけど、


今日はもっと優しくて柔らかい音だ。


そして弾いていたのは。







「きらきら星だ…」






単調な曲だけど、


しっかりと響く曲。


私が小さい頃、


悲しい時にお母さんが


歌ってくれていた曲だ。


私は窓際に移動し、


窓を開けることなく、


耳だけ研ぎ澄ました。


悲しい音色だけど、


私の芯に染み渡る音。


さっきまでの悲しい気持ちが嘘のように、


どこかへ消えていった。


音が鳴り止んで少しして。


今日の全てを洗い流すべくシャワーを浴びる。


全てを綺麗な気持ちにしたかった。






「わ、電話…」






突然震える携帯に驚きながらも、


何となく誰からか予想がついて


画面も見ずに電話に出た。







「何?」






「何じゃねえ。来いって言ったろ」






はい、ですよね。


こんな時間にかかってくるのは、


この暴君しかいませんよね。


なんて自分にツッコんで、


少し笑った。







「今お風呂上がったところだから待って」






「今すぐ来い。すぐ」






ガチャン。


電話が急に切られた。


言いたいことだけ言って切る。


いつものことなんだけど、


なんかむず痒い。


お風呂上がりに会うことなんて、


ずっとしてきたのに。









「お邪魔しまーす…大和?」





玄関もリビングも真っ暗で、


親がいないことは一目で分かった。


大和の部屋すら真っ暗で、


携帯の光を頼りに行き慣れた廊下を


真っ直ぐ歩いた。







「大和?…って、え?寝てるの?」






部屋の入り口で中を確認すると、


布団を被っているのか、


丸くなった掛け布団が人型になって


ベッドの上にある。


人を呼んでおいて寝てるとか、


本当に大和は勝手な奴。


私は少し腹を立て、


ベッドを蹴った。