「明香…おいで」
京也は私を優しく見つめると、
ソファに座り隣へと促してきた。
京也の声に涙腺を壊され、
私は泣きながらソファに落ちた。
悲しいのか、怖かったのか、
何が本当の気持ちか分からない。
だけど楽しい思い出しか出てこなくて、
ドキドキした記憶しかなくて、
現実を受け止めるのに時間がかかってしまった。
「あの人、明香のことは大切にしてくれてたんだね」
肩をトントンと一定のリズムで優しく叩く。
まるであやされているかのように、
私は心を落ち着かせていった。
「あ、大和」
それから30分後。
京也と他愛もない話をしていると、
玄関のドアが開き、大和が戻ってきた。
この後バイトで帰らないといけない京也は、
大和と入れ替わるように家を出た。
帰りに、夜中でも何かあったら連絡しろ、と
いつも以上に甘やかされた。
「どこ行ってたの?」
「別に」
大和はそう言うと、
私の前に立ちはだかると、
じっと私を見て黙っていた。
「え、何?」
「明日、」
唐突に。
「あの男から連絡が来るから、最後に話せ」
「う、うん。そうするけど、」
そう言って大和は玄関に向かう。
見送ろうと後を追うと、
大和は靴を履いて振り返った。
「大和、心配かけてごめん」
今回ばかりは謝っておかないと、
と素直に頭を下げた。
大和の拳が赤くなっていて、
さっき殴ったせいだと分かった。
「後で家に来い」
「…うん、」
そう言って私をその場へ残し、
大和は自分の家へと帰って行った。
私は、力が抜けてその場に腰を下ろした。
徹平がニュースの当事者で、
だけどもう今はやっていない。
恨みを買って騙された可哀想な人。
だけど私を、騙した人。
全てが振り出しに戻った。
徹平といる間、私はなぜ気付かなかったのか。
今考えてみれば、分かる。
だって一度も、スケボーの話も、バスケの話も。
サックスの話だって、したことがない。
そんな影もないのに、気付きもしなかった。
悔しいのと、悲しいのと。
色々な思いが涙に変わり、
疲れ果てた私は、
いつの間には玄関で意識を飛ばし、
眠りについていた。


