「明香、これだけは言わせて」
涙が溢れた。
胸がグッと苦しくなった。
徹平のその一言が。
“好きだ”と言うその言葉が。
2人の過ごした時間を全て思い出させた。
「明香!!」
そこへ足音と私を呼ぶ声がして、
一瞬のうちに私の前から徹平が消えた。
大和が、徹平を、殴り倒したからだ。
「明香、大丈夫?!」
京也もすぐ傍まで来て、
私の肩を摩ってくれる。
そして目の前で大和は、
徹平に殴りかかろうとしていた。
「大和…止めて。だめっ…!」
「離せ!向こうに行ってろ!」
怒りを剥き出しにする大和は、
私の腕を力強く振り払おうとする。
だけど、私は、こんなこと望んでいない。
それに、徹平とどうするかは、
大和には関係のないこと。
「もういい!大丈夫だから!殴んないで!大和!お願い…っ。お願いだから…」
さっきの徹平の言葉が再び響いてきた。
切なそうに私を好きだと言う声が、
今回の全てだった。
明日で全ては終わる。
もう、事実を知った以上、
庇うことも出来ないし、
認めることも出来ない。
「分かった明香。もう、泣くな」
大和は目の前に立ちはだかる私の頭を
優しく撫で、声を段々落ち着かせていった。
きっと怒りを抑えながら、
私を優先してくれた。
「徹平、ごめん。今日は、帰って」
冷凍庫からアイスノンを取ると、
ハンカチを一緒に徹平に手渡す。
ゆっくり立ち上がり私を真っ直ぐ見ると、
明日連絡すると言い残し、
その場を去って行った。
残された空間は沈黙の中に気まずさを残し、
ただならぬ緊張感だけがそこにあった。
徹平が倒れたせいで荒れたリビングを、
私は黙って直す。
京也は散らばった雑誌やチラシを、
手当たり次第にまとめてくれる。
殴った本人はと言うと、
いつの間にかいなくなっていた。


