そこには、君が






意地悪く、笑って。


少しだけ口角を上げて。


冷たい唇で、


私を覆った。







「ん…、っ、」






いつもより長く感じた。


そのせいで、冷たく吐息が、


漏れ聞こえてしまう。







「戻ろ」





「えっ…」







徹平さんは強引に手を引き。


来た道を、速く歩く。


着いて行くのに必死で、


頭の中が追いつかない。


どうしたの?


そう聞く余裕すらない。


どうしてか、なんでか。


すごく寒いのに。


体の中が、とても熱い。








「あの、」







部屋の電気は、


出るときに消した。


だから戻って来ても、


真っ暗なのは当然。


だから電気、付けようかなって。


そう言おうとした。







「電気…」







でも言えなかった。


なぜなら、前にいた徹平さんに。


抱きしめられたから。








「俺、今まで生きてきて」






耳元で、小さく言う。


言葉の一つ一つが、


染み込んでくる。








「こんなに欲しいって思ったことない」






「欲しい?」






「うん。明香ちゃんが欲しかった」







切実に紡ぐ言葉たちが、


全部温かい。


私だってずっと欲しかった。


傍にいたい。


そう思ってた。








「私だって…」







徹平さんから少し体を離し、


目を見てそう言うと。


何故か徹平さんは悔しそうに、


下を向いて何かを堪える素ぶりを見せ。


顔を上げた時、パチリと目が合って。


それから、時間が止まって。


徹平さんが、私の髪を耳にかけ。


その手がゆっくり首元にいき。


また時間が止まって。


そして。








「明香、」







愛おしそうに名を呼んで。


ゆっくり優しく、キスをした。







「徹平さ…んんっ、」







なのに私は名を呼ぶことすら


許されず、身を委ねるしか


出来ない。