そこには、君が









「夜景…見たいな」






「じゃあ、行こ」







徹平さんはそう言うと、


私の浴衣の上に自分の上着を被せ、


「寒いから」とひっそり笑った。


小さな優しさが温かくて、


だんだんさっきのことが頭から


離れていくようで。








「この辺、何もないと思ってたけど」








当たり前のように手を引いてもらい、


知らない場所へと向かう。


履きなれない旅館の下駄が、


少し痛みを感じさせる。









「こんな所、あるんだってさ」







「…す、っごい」







思わず息を呑む。


少し山の上にあるこの旅館は、


周りに商業施設も何もなく、


観光も全て山を下りなければならない。


だから明日の朝までは、


何も出来ない。


そう思っていただけに。








「ここ、絶景ですね」







「こんな夜景、初めて見た」








もしここが家の近くで、


誰にも知られていない場所なら、


絶対誰にも言いたくない。


独り占めしたくなる。


そんな景色を、


隣で見ているのは、徹平さん。


こんな幸せ、他にない。







「ちょっと寒いね」






「あ、私のせ…っ、」







着ている上着を脱ごうとすると。


話も聞かずに、徹平さんは。







「こうすればいっかな」







私を上着ごと、


抱きしめた。








「もー、冷たいんですけど」






頰と頰がぶつかる。


その瞬間に感じる、


徹平さんの肌の冷たさ。


これはまずい。


そう思って、


頰に手を伸ばすと。








「温めてよ」






ふっ、と。