「元気な赤ちゃん、絶対生まれます」
「絶対産む。ママ頑張るよ〜」
幸せそうに微笑むこの人が、
とても羨ましくなった。
早く上がらないと。
こんな数分離れただけなのに、
徹平さんに会いたくなった。
女の人も脱衣所へ向かうと言い、
2人で温泉から体をあげた。
足を滑らせないように、
細心の注意を払い付き添う。
体を拭き、髪を乾かす。
体がポカポカ温かい。
「今日は誰と来てるの?」
「あ、えっと…」
荷物を片手に暖簾をくぐる。
出口と書かれている戸に、
手をかける。
開けた先に見えた、徹平さん。
「あ、もしかして」
「はい。彼氏…です」
自分で口に出してみて、
無性に恥ずかしくなるのが分かる。
女の人は、にっこり笑うと、
会えてよかったと手を握ってくれた。
「じゃあ、おやすみなさい」
「失礼します」
徹平さんが待つ方ではない廊下を、
ゆっくり歩いていく女の人を
見送ると。
「明香ちゃん」
私は駆けた。
無我夢中で駆け出した。
徹平さんに向かって、
ただ必死に。
「え…っと、どうした?」
「なんか、あの、」
同じ温泉の匂いがしているはずなのに、
なんだかとてもいい匂いな気がする。
服が浴衣になっただけなのに、
別人になったように見える。
「会いたく…なって、」
温泉マジック。
「部屋戻ろっか」
「はい」
行きにはなかった、
手を繋ぐこと。
些細なことかもしれない。
だけど私には幸せすぎる、
この瞬間。


