「ごめんなさい…手が、」
会場を出た私たちは、
女子トイレの洗面台で
ケーキを落とすことに。
あんなことがあったからか、
徹平さんはずっと無言。
耐えられず、私1人で
言葉を並べるも、
聞く耳を持たない。
「大丈夫です、もう本当」
「大丈夫なわけないから」
徹平さんはケーキを
落としきってもまだ、
私の服を擦り続ける。
手が真っ赤になるまで。
「もうやめてください」
「本当、なんて言っていいか…」
徹平さんが悔やんでいる。
だけど私は不思議と、
あっけらかんと出来た。
「もー、本当可愛いですね徹平さん」
ケーキをかけられても尚、
笑っていられる私は。
徹平さんがどれだけ、
人に慕われているかを
目の当たりに出来たから。
彼女の存在を知って激怒した
あの女の人たちとか。
嬉しそうに周りを囲む、
男の人たちとか。
三者三様、それぞれの対応があって。
何より、女の人たちに、
ちゃんと怒ってくれたことが。
何よりも、嬉しかった。
「そんなに落ち込まないで…」
「もう、本当にごめん」
徹平さんはようやく立ち上がり、
気が抜けたように全身を
私に委ねる。
耳元でずっと、謝り続ける
この人は、本当に私のことを
想ってくれてると感じた。
やっぱり可愛い人だ。
「帰りましょ?」
「…はい」
本来なら拗ねたいのは私。
なのに、なぜか今回は、
徹平さんが不服そうに
顔をしかめている。
「明香ちゃん」
大学を出る時。
徹平さんは自分の上着を、
私の肩にかけて。
寒いから、と貸してくれた。
確かに寒い。
だって徹平さん。
必要以上に、
服に水をかけるから。


