マンションの前に着くと、エントランスには悠太が待ち構えていた。
「千代、どこ行ってたの?」
なんだか、怒ってる。
「撮影……かな」
「ごっめんね~、俺が勝手に千代ちゃんを振り回しちゃった」
軽そうに圭くんは悠太に謝った。
「……千代、家に入ろう」
悠太は、少し強引に腕を引くと、エレベーターに乗り込んだ。
「……」
「……」
お互い無言のまま、エレベーターは最上階まで登る。
エレベーターから降りると、ようやく腕を離された。
鍵を開けて、ひんやりとした室内に入った。
「ゆ、悠太……?」
表情の見えない悠太の顔を、覗き込むように見た。
「……っ」
すると、不意に私の腕を引き、バランスを崩した私は悠太の胸に倒れた。
「っゆ……うた……?」
ギュッと力強く抱きしめられて、少し苦しいくらいだ。
「……本当、酷いよ千代は」
「え?」
「ヤキモチ、妬いた」
「ヤキモチ?」
「そう、ヤキモチ。だって、今まで圭くんと居たんでしょ?」
「う、うん……」
「おまけに、圭くんの腰に腕なんて回しちゃってさ」
「それは……バイクから振り落とされないように」
「むぅ……」
表情は見えないけど、なんとなく不機嫌で、拗ねてる?
というか、久々に悠太と話したなぁ。
すると、悠太は私の肩に頭をグリグリと押し付けてきた。
「……千代」
耳元で聞こえる声が、少しくすぐったい。
「ん?」
「千代っ」
なんだか、久々の悠太は、前にも増して子供っぽい。
「……好き」
「へっ」
悠太の口から直接出てきた言葉に、驚きを隠せない。
「好き、大好き……ずっとずっと好きっ」
何度も何度も、そう言った。
私を抱きしめながら。