50mのタイムを測る途中で、つる……と




さっそくカメラが回る。



物語が進み、いよいよ私が泳ぐシーンになった。



泳ぎはそれなりに出来る。



飛び込み台から、勢いをつけて飛び込むと、ストロークをした後に、クロールで泳ぐ。



25mくらいまで来たところで、私は足を吊った提で、溺れる演技をした。



「っ……!」



ここで、玲が助けに来る。



「みこ___」



奏が名前を呼ぼうとするのを阻止するかのように玲が口を開く。



「美琴!!おい、しっかりしろ!」



同時に、玲はプールに飛び込み、私を抱える。



「な、なんで玲様があの子なんかを……!」



篠宮燕が、皮肉を口にする。



「れ、玲!美琴は!」




「……気を失ってる。待て、息をしてない……?」



「う、嘘だっ」



「……」



ここで、玲が人工呼吸をしようとする。


しかし




「ちょっと待った!!」




それを奏が阻止した。



あれ……こんなの台本にないよね



「あ?今は一大事だ」



流くんは、それに怯むことせず、悠太のアドリブに乗った。



「俺がやる」




「いや、お前には無理だ。ここは俺が……っ!美琴!」




「ケホッ。こ、ここは……あ、私泳いで……」



収拾がつかなくなりそうで、私は台本通りの台詞を、ここで言った。



「よ、良かった……」




「美琴、体は大丈夫か?」




「うん、大丈夫」




「念のため、保健室に行こう」





「いいよ、そんな……」




「いや、ダメだ」




「そうだよ、俺も保健室に行って休んだ方が良いと思う」



「先生、良いですよね?」



「ああ」





「……カット!!」




その瞬間、撮影が止まった。




私も目を開け、起き上がった。




「葉山くん、その焦る表情良いね」




「あ、ありがとうございます!」




「千代ちゃんも、溺れる演技、最高だったよ」



「ありがとうございますっ」


ほ、褒められた……



素直に嬉しい。



「玲くんの必死さも良いねぇ」




「はい、ありがとうございます」




「今のシーンのアドリブなんだけど……」




みんなの喉が、ゴクリと鳴った。




「いいね、アレ。視聴者は、人工呼吸でキスを催す。今の所で玲が人工呼吸をしていたら、どちらとくっつくのか、結末が見えてしまう。流石に2話目でそれはつまらなかった」



「……」



みんな、黙って監督の話に耳をすませた。




「君たちの演技から学ぶことも多いもんだ。自由な演技が、この物語を作っている。私の脚本なんて、ストーリーを進めるための押しにしかならないのさ」




「君たちが、この物語を作り、結末へと導け。いいね?」




「はい!」




出演者全員の声が、プールサイドに響いた。