蒸し暑い………




衣替えが終わり、夏服を身にまとった私達は、熱い日差しに負けていた。




「暑い……」




パタパタと下敷きをうちわ替わりにする悠太。



机の上には、いつの間にか冷たそうなパックやペットボトルのジュースが置かれていた。



多分、ファンの子が置いていったんだろう。



週一ペースで、ドラマの撮影が入る。




今日は、プールのシーンだっけ




なんカット目かの、プールシーンを撮影する。



確か、うちの学校を借りるとか言ってた。



大丈夫なのかな



確か、お昼時に撮るって言ってたっけ。



今日はそのこともあって、午前授業で、もうすぐ終わるのだけど、後1時間後には騒ぎが起きるだろう。




みんな撮影があるって知っているから、多分見て帰るつもりだろう。




中には、エキストラとして出たいが為に、水着を持参してきた子もいた。



水着も、うちの学校の使うんだよね。



私が、足を吊って溺れるシーンだけど……




足を吊る演技なんて、出来るのかな




頑張るしかないけど。





授業が終わり、撮影のワゴン車が到着すると、急いでその中に入った。




「なんの撮影!?」



「噂だと、葉山悠太と須永流が出演するらしいぞ」



「恋愛ものって聞いたけど、メインの女の子誰!?その子の水着姿見れるとかラッキーじゃね?」



野次馬が群がる。



水着に着替え、ロングパーカーを羽織る。




プールサイドでは、既に準備が着々と進んでいた。




「大丈夫だよ、ほら行こう?」



「堂々としていればいい」




二人に背中を押され、私達は車を降り、プールサイドに立った。



案の定、ざわついた。




「え、あの子って前に拓巳様と写ってた子じゃない!?」



「うちの学校の、日比谷千代って子だよね?」



「なんか、凄くね?」



「スタイル良いなぁ。てか、キラキラして見えるわ」




熱くなったプールサイドにつく足に、じわじわと熱が伝わる。




「すぅ……はぁ……」



深い呼吸をする。




大丈夫




勿論ドラマには、他にも出演者がいる。



気が強く、何かと邪魔をしてくる篠宮燕(しのみやつばめ)を演じる、山本恵美(やまもとめぐみ)さん。



私の2つ上で、流くんと同い年だ。




山本さんは、子役の頃から芸能界にいる、ベテランだ。



「日比谷千代さん、今日もよろしくお願いしますね」



優しく微笑んだ。


山本さんの役とはまだあまり絡みがない。



「はい、よろしくお願いします」




「……あなたが、あの東雲紗代里の娘?だから何って感じよ。この業界では、あたしの方が断然先輩。それに、実力だってあるの。あたしの足を引っ張らないでちょうだいね」



「え……あ、はい」



急な豹変っぷりに、唖然とするしかない。




「じょ、冗談よ!ほら、そんなに固まらないで?裏表のある役になりきって脅かしてみただけなのっ」



「な、なるほど……」



「安心して。私はそんなことは言わないから」



「な、なんだ……」



ホッとした。



本当にあんな性格だったら、どうしようかと思ってしまった。



「すみませーん、ここにいる方でエキストラに参加して頂ける方はいませんか?」




スタッフさんが、野次馬に向けて声をかけた。




ざわざわと、やるかやらないか友達と話している。



「もしやって頂けるのであれば、水着に着替えてプールサイドに集まっていただくよう、お願いします〜!」




少しして、プールサイドには沢山の生徒が集まった。




そして、撮影は始まった。