『乗れ。』

バロンの声に、
少女の肩がビクリと震える。
それはそうだ。
彼らの声は、
人間にはただの鳴き声にしか聴こえない。

「乗りなさい。大丈夫、何もしないよ。」

サリヤが少女の傍に行ってそう言うと、
少女は小さく頷いてバロンにまたがった。

『捕まっていろ。』

バロンの言葉が解ったのかどうなのか、
少女はバロンの首元にしがみついた。

「頼んだぞ、バロン」

サリヤの言葉にうなずくように遠吠えをあげると、
バロンは高原を走り出した。

「さぁ、わたしたちも帰ろう。ねぇ?ギリア。」

『ああ。』

「ヤード!ジルバ!帰ろう!」

サリヤは振り返りながらそう言って、
二頭の狼の元へと歩み寄った。

『まったく。
ギリアは、サリヤを
とんだじゃじゃ馬に育てたもんだぜ。』

『そう言ってやるなよ、ヤード。
ギリアだって、
まさかこんな我が儘に育つとは
思ってなかったんだろうよ?』

『ふっ・・・それは一理あるな。』

「ヤードはともかく、
ギリアまでジルバの味方か・・・
まぁ、良い。
今日の夕飯を手に入れて早く帰ろう。」

サリヤがそう言うと、
二頭の狼は走り出した。
それを追うように、
彼女もまた走り出した。
まるで動物のように、
彼女は四つんばいになって走っていく。
その後姿をただ静かに眺めながら、
黒ヒョウは呟いた。

『よく、無事にあそこまで育ったものだ・・・
哀れな娼婦の踊り子の娘よ・・・』

ギリアは一声遠吠えをあげると、
3つの獣を追いかけて走り出した。
日は、そろそろ西へ傾き始めている。