私と彼のマイペース



「なんで……って。家ばかりにいるよりも、ここに来る方が気晴らしにもなるかと思って」

「じゃあ、図書室ですればいいのに。あそこはクーラーあるから涼しいだろ? わざわざこんな暑い場所に来なくても」

「ここの方が落ち着くの」


嘘だよ。どこにいたって落ち着かない。いつだって息苦しさにもがいている。

それでも行く場所がないから………目指す場所もないから。

だから私は、この狭い世界にいるだけ。


顔は上げないまま汗が滲む手でシャーペンを握り、久々に問題文を読み始めた。

だけどアルファベットが頭の中でぐるぐると騒ぐだけで、まったく内容が頭に入ってこない。耳から入ってくる陽気な彼の声が、徐々に私を苛立たせながら邪魔をしてくる。


「折原って、勉強好きなの? いつも熱心に勉強してるけど」

「好きっていうよりも……やらなくちゃいけないの。自分の将来のためには」

「ふーん、そうなんだ。将来のため、ねぇ……。でも俺には折原が、何のために勉強してるのか分からない、って顔してるように見えるんだけど」


今まで誰一人にも言われたことのない言葉をさらりと言われて、勉強を再開しようと思っていた手も思わず止まる。

シャーペンが手から滑り落ちるのも気にせずに顔を上げると、椅子の背もたれに頬杖をついている朝倉くんとまた目が合った。

あまりにもまともに目が合って、今度は逸らすことが出来ない。


「図星って顔してる」

「なっ……何言ってるの。そんなの、全然違うから」


誰にも見破られたことがない気持ちに土足で入り込まれて、慌てずにいられるわけがなかった。

気持ちばかりが焦って、なぜ自分が本音を誤魔化したいと思うのかも分からない。