幕末の雪

「おい、起きろ」


あまり信頼関係のない、しかも仮にも女子(殺人犯)の肩を揺さぶる気にはなれず、土方は声だけをかけた。


起きる気配はないようだ。


心地よさそうに眠る陽の背中に手を回し体制だけを立たせ、そのまま土方自身の背中へともたれさせた。


つまりは、土方が陽をおぶる形になる。


「歳(トシ)…?」


「珍しいじゃないですか」


近藤と沖田が違った意味で声を掛けるが、他も各々疑問を持った顔だ。


沖田はからかおうとしているだけで、分かりやすく口角の異常に釣り上がった笑顔をしていた。


「酒を飲んでる奴に背負わせるわけにはいかねえだろ」


土方が、特に、と視線を向けたのは三馬鹿。右から、原田、藤堂、永倉だ。


散々酒を飲んで、今も顔の中心を真っ赤にしているくせに、三人は、俺?とでも言いたげに首を傾げた。


それも三人揃って同じ方向に、同じ時にだ。その様子がかなり面白かった。


やはり三馬鹿だ。


近藤や沖田に続き、土方、山南が笑う。斎藤まで微かに笑みを浮かべている。


「とっとと帰るぞ」


歩き出した土方の後を、のそのそと男集団が着いて行く。


沖田は一人、歩く速度を速めて土方の隣からひょっこりと顔を覗かせた。


土方の顔が一瞬で引きつる。……知っている。この顔は、嫌いな悪戯好きな沖田の笑顔。


「起こせばいいのにどうしてわざわざ?」


土方の後ろで眠る陽に一度視線を移す。土方も、沖田の視線がわざとであることは知っている。