幕末の雪

散った桜の花弁が何枚か陽の髪についている。


(あ、綺麗だ……)


つい先日、陽の髪を夕陽に当てたいと思っていた藤堂は桜の花びらが絡まる髪を見て、頬を赤めた。


細くて柔らかい羽毛の一本一本を繋ぎ合わせたような綺麗な髪は、夕陽に照らされ燃える炎のように真っ赤な色だ。


その色は紅葉よりもずっと紅(くれない)が似合う。


桜が絡むことで、よりその紅は色を引き立てられている。


朝日に当てると、水が滴ったように輝くのとはまた違い、それでも美しかった。


そして、それによってまた陽の白い肌が引き立てられるのである。


「こんなとこで寝るなんて、無神経な奴だな」


自分の状況を理解した上で、しかも刀もなしに外で眠れるのか、と土方は呆れる。


放って置いてしまったのは、自身達ではあるが……。


土方は陽の視線に合わせしゃがみ込み、赤く熟れいた髪に指を絡めた。


その瞬間、藤堂は胸がドキリと音を立てるのと共に、チクリと痛むのを感じた。


土方の指先を見つめる藤堂の鼓動がどんどんと速まる。


(…土方さん、何してんだよ……)


その指先が、桜色の物体に触れた瞬間に、ぷつんと弾かれた様に藤堂は安堵の息を吐く。


だが藤堂自身、その自分の安心がどこから来ているのかが理解していなかった。


それ以前に、胸が痛んだ理由さえも全く心当たりすら覚えていなかった。


陽の髪に付着した桜の花びらを土方は丁寧に取って、はらはらと風に乗せるように離す。


ゆっくり、時を止めて舞い落ちる花の妖精。一つの花びらに目を奪われていると、また一つと幾つも落ちてくる。


夕陽に照らされ、まるで真っ赤な雪が降るかにも見えた。