涙の雨と君の傘

あ。

いま絶対呆れたな。


でも仕方ない。

私も自分自身に呆れっぱなしなんだから。


「そういうことだから、私は走って帰るわ」

「え。ちょっと……」


鞄を傘代わりに、私は雨の中に飛び込んだ。

途端に身体に叩きつけられる粒は、勢いが凄く痛いほどだった。


「ありがとね笹原! また明日!」


雨で笹原の姿がぼやける。

激しい雨音に負けないよう叫び、家へと全速力で駆けた。


容赦のない雨に、息をするのもやっとで。

なんだかずぶ濡れの自分がおかしくて、楽しかった。


雨に濡れるのも、たまには悪くない。


そんな風に思えるほど、心は軽くなっていた。




ハンカチを返し忘れたことに気付いたのは、家の脱衣場で重くなった制服を脱いでいた時。


そっとハンカチを鼻に当ててみたけれど、もう雨の匂いしかしなくて。


それを少し、残念に思った。