気をつけてねと、かすれた声。
笹原の顔は、見れなかった。
大事にされるのがどれだけ幸せなことか。
その喜びと奇跡を、笹原が教えてくれた。
アイツを大切に想い、バカみたいに待つ私を、あきれながらも助けてくれた。
私は間違ってないと、示してくれていた。
いつだって、その優しさでもって。
雨から守る、傘のような優しさでもって。
笹原の最軽量の優しさを握りしめる。
声は出なかった。
心が震えていた。
足元のローファーが歪んでいった。
行けるわけが、ない。
どうしたら別れられるのか。
いつか笹原が言っていたように、嫌いになる必要はなかった。
アイツを嫌いになったわけじゃない。
ただ、アイツよりも、大切にしたい人ができた。
この人の傘に、入りたいと思った。
それだけのこと。
私はそっと、
冷たいローファーから、足を引き抜いた。
END



