涙の雨と君の傘

笹原の黒い髪がゆれる。

優しい香りが風に舞う。

大きくて冷たい手が、私を引いて走る。


その力強さに、私はされるがまま。

転ばないよう必死に足を動かしながら、見ていた先は古都の道ではなく。


いつもよりピンと伸びた、頼もしい、広い背中だった。




「名瀬。この辺だよ」

「え?……あっ! あった!」


待ち合わせ場所に選んだ、ガイドブックに載っていたお茶屋さんが道を挟んだ向こう側にあった。

私がそう叫ぶと同時に、笹原の手がパッと離された。


走ったせいか、温かくなってきていた手が少し名残惜しくて、目で追ってしまう。


「行っておいで」

「え。笹原は?」

「俺が行ってどーすんの。彼氏も困るでしょ」


それは確かにそうなんだけど。


でも、わざわざ私を探してここまで連れてきてくれた笹原を、ひとりで帰していいの?



「いいから、ほら」


トンと軽く背中を押され、反射で足が前に出る。

手を振る笹原を振り返りながら、私は店へと走った。


約束は店の前だったけど、アイツの姿はない。


待ちくたびれて中に入ってお茶してるんだ。

絶対ぶちぶち文句言われる。

でも迷って遅れた私が悪いんだし、謝ってお茶でも奢れば、アイツも機嫌直してくれるはず。



そんな風に考えていた自分が、とんだのんき者だと知ったのは、店に入ってすぐのこと。